剣道なみあし独行道

石火のあたりせっかのあたり小さい面ちいさいめん

概要

石火のあたり」とは宮本武蔵の『五輪書』の記述にある打ち方です。どのようなものか『五輪書』より引用します。

石火のあたりは、敵の太刀と我太刀と付合ふほどにて、我太刀少しもあげずして、いかにもつよく打つ也。是は足もつよく、身もつよく、手もつよく、三所をもつてはやく打つべき也。此打、たびたびならわずしては打ちがたし。よく鍛錬すれば、つよくあたるもの也。

はい、なんのこっちゃ全然わかりません(笑)親切に見えてそうでない、武蔵先生の常套手段ですね。
ただ、なみあし剣道で解釈すれば、おぼろげながらその姿が見えてきそうです。

技の順序

以下は私個人の解釈です。これが正しいと主張するものではありません。もっとよい解釈があれば教えてください

”敵の太刀と我太刀と付合ふほどにて”

これはどういう間合いでしょうか?私は単純に「一足一刀の間合い」だと思います。
『付合ふ』という言葉が『くっつく』を連想させることから鍔競りと解釈する向きもあるようですが、鍔競りからわざわざ刀で切りつけなくとも殴打・足がらみ・組討ちの方が有効に思われること、そのような接近戦を避ける意味で現代剣道のように鍔競り・退き技が頻発するようには思えないこと、刀を「付ける」という表現で構えを執るという意味がある(スキージャーナル社、全解日本剣道形、p28他)ことから鍔競りではないと考えます。
さらに『石火のあたり』の次項、『紅葉の打ちといふ事』には『又石火の打にても、敵の太刀を強く打ち、その儘あとをねばる心にて、きつさきさがりにうてば、敵の太刀必ずおつるもの也。』とあり、前進する局面で出すわざであることが仄めかされています。

”我太刀すこしもあげずして”

現代剣道の「小さい面(刺し面)」を思わせる表現です。いわずとも現代剣道では必須の技術であり、最も用いられるわざであります。一方で「軽いわざ」「真剣ではできないわざ」と非難され、現代剣道特有の技術とみなされていますが、武蔵先生はそうではなかったようです。
これは「剣先の抜き」で解決できそうです。
「剣先の抜き」とは竹刀をそのまま振りかぶるのではなくて、脱力して逆に剣先を落として打突することです。落とした剣先を支えたその瞬間、左踵に強い荷重がかかるのが感じられると思います。(モーメントの釣合。右足は浮かしておかなければならない。)左踵への荷重が左膝の抜きを誘発し、左腰の前進・竹刀の振り上げへと動作がつながっていきます。
一旦理解できると、極僅かな落下もしくはイメージだけで抜くことができます。
振り上げる高さは、力を抜くタイミングで決まります。大きく振りたいなら、肩や腕で振り上げを少し助勢してやります。所望の高さまで上がれば、脱力して振り下ろしへと移行します。小さく振りたいなら、助勢はせずに左腰に振り上げられるままに振り上げれば、左腰からもらった運動エネルギーが位置エネルギーへ変換した時点で振り下ろしへと移行し、自然とそれほど大きくは振り上がらないものです。

”足もつよく、身もつよく、手もつよく”

力一杯に打つことではなく、自然と強くなる(勢いを殺さない、ブレーキをかけない)ことと考えます。(『打つとあたるといふ事』参照)
力を込めては遅くなるばかりで、ちっとも有効なわざにはなり得ません。心がけるべきは如何に力を抜いて勢いを殺さないかです。なみあし剣道を志している方は分かりますね?(重力の利用)

”はやく打つべき也”

う〜ん、ここでは武蔵先生は「当たる」ではなく「打つ」という表現を使っています。ただ五輪書全体を読むと、どうも「打つ」という言葉には単純に「刀を振る」という広義の意味と「当たる」と対をなす狭義の「打つ」の両方の意味が含まれているように読めます。ここでは広義の「打つ」ではないかと思います。
速く振ろうとすればするほど、筋肉は強張り、結果予備動作が大きく現れます(いわゆる「色が出る」状態)。よって前述の通り、如何に勢いを殺さぬよう脱力して振ることができるか、がコツです。

”たびたびならわずしては打ちがたし”

全くもってそのとおりです(笑)。一応、分かりやすく解説したつもりですが、これでも何のことかさっぱりの方も多いと思います。まずはなみあしそのものをじっくり学んでもらえれば、上の意味をわかっていただけるものと信じております。

技のコツ

繰り返しになりますが、なみあしの理論を理解すること、脱力することで発揮される力があることを理解することですね。
もし、打ちが軽いとお感じなら、右膝をもう少し深く曲げてください。決して手や腕に力を込めて打たぬよう・・・
もしくは、鼻先・口元・顎先まで切り下げる意識で打ってみましょう。

練習法と注意点

これといったものはありません。自然とできるようになると思います。

実践動画

Coming soon...

派生技

能々稽古あるべし

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