剣道なみあし独行道

竹刀の長さを見直すしないのながさをみなおす

はじめに

『弘法筆を択ばず』と言います。ならば優れた剣士は、どんな竹刀でも構わないのでしょうか?むしろ優秀な剣士ほど竹刀に非常に気を使っているように思います。
しかし、大体は重さや振った感触に注目し、中学生だから3尺7寸、大学生だから3尺9寸、と長さに注意を払う人はほとんどいないようです。
それは大きな損失を招いています。

長い竹刀の弊害

長過ぎる竹刀の弊害について、なみあし剣道的視点から述べたいと思います。
なみあし剣道の初歩は、『左足に荷重すること」です。しかし、竹刀が長くなると、右足荷重が強まり、合理的な身体操作を阻害します。
なぜならば、右足は身体を後ろに押す力が強いからです。竹刀が長くなると、前回りのモーメントが強くなります。これに釣り合う形で右足の荷重を増やさなければなりません。剣道は右足を前に構えますから、特にこの作用が強く出ます。意識すれば、左足でも後ろ回りのモーメントを出せないことはありませんが、右足でそうするのが合理的です。

竹刀の定寸

現在、一般では3尺9寸が定寸です。もっと前は3尺8寸でした。3尺8寸になった経緯は、面白いというか、適当というか・・・ 幕末に講武所で流派を超えて、剣術を教えるようになった際、竹刀の長さを統一しようとしたものの、各流派は自流の説を譲らず、まとまりませんでした。それを男谷精一郎が、各流派の中で最も短い2尺6寸と、最も長い5尺の平均を取って3尺8寸としたのだそうです(1)
これには異説もあります。中山博道は、甲手の幅が4寸5分、両手で9寸、これに鍔元と両手の間の間隔1寸ずつを加え、1尺1寸。これは刀の柄8寸より、3寸長いので、バランスをとるため、剣先も3寸伸ばした結果、刀の長さ3尺2寸+6寸で3尺8寸となった、と著しています(2)
その後、時代が下り、昭和の前期には3尺9寸が使われていたようです。
このような経緯ですから、竹刀の長さはもっと自由に考えてもよろしいでしょう。

長さの基準

さて、竹刀の長さは何を基準にすれば良いのでしょうか?定性的には子供や身長の低い方は短い竹刀を、身長が高い方は長い竹刀を、とするのは特に異論はないでしょう。
これに対して、伝統的な長さの基準がいくつか伝わっています

  1. 立ったときの床から鳩尾(乳首とも)までの高さを竹刀の全長とする方法。
  2. 右手で柄尻を持って左右の手を拡げたとき、剣先が左手の中指第3関節に達する長さとする方法。

ちなみに管理人は3尺8寸5分の竹刀を使っていますが、どちらの方法でもピタリと一致しました。
このように、身体を基準に長さを測る方法を身体尺といい、例えば尺(手の中指から親指の距離)、寸・inch(親指の巾)、feet(足の前後長)などがあります。

軽くするよりも短くする

竹刀捌きを良くしようと、竹刀を軽量化する人がいますが、それより短くすることをお勧めします。
長さをそのままに軽量化しようとすれば、竹刀の強度を下げ、竹刀が折れやすくなり、ひいては怪我につながるからです。
これを物理的に解説します。
物の振りやすさは慣性モーメントという値で比べることができます。(要はてこの原理で、質量だけでなく、大きさも関係あるよ、ということ)単純化のために、竹刀を密度均一な只の棒とみなし、回転の中心が柄尻にあるとしましょう。
このとき竹刀の質量(重さ)を\(m\)、全長を\(l\)とすると、慣性モーメント\(I\)は \[ I=\frac{ml^{2}}{3} \] と表されます。つまり秤で測った重さよりも、長さが影響していることが分かります。 質量と長さの変化がどれくらい慣性モーメントに影響するかというと \[ \frac{\Delta I}{I}=\frac{\Delta m}{m}+2\frac{\Delta l}{l} \]
つまり、長さの変化は重さの変化の2倍効くということです。なので、軽量化は労多くして功少なし。軽量化に血道を上げるより、短くしましょう。短くすれば、軽量化も同時達成できますし。

短い竹刀を手に入れる

とはいえ、短い竹刀には大きな欠点が一つあります。それは入手性です。短目の竹刀というのは一般的には売っていません。ならば、自分で作るほかありません。新品の竹刀に鋸を入れるのは忍び難いかもしれませんが、上達には代えられません、思い切って切り落としましょう。
切る際は、5分詰める分は剣先を、1寸詰める際は、剣先と柄を5分ずつ切り落とします。

長さに慎重であれ

毎日稽古する方を除けば、ほとんどの人が長過ぎる竹刀を選んでいると思います。振りにくい竹刀を頑張って振っても、上達しないどころか、むしろ阻害されます。もちろん長い竹刀を上手に振れるようになることは大切ですが、その場合も徐々に長くしていきましょう。初心者ほど少し短いものから始めるのが良いでしょう。
武蔵先生も『あまりたる事はたらぬ事と同じ也。人まねをせず共、我が身に随ひ、武道具は手にあふようにあるべし。』(3)とおっしゃっています。

実践動画

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参考文献

  1. スキージャーナル、[新装版]高野佐三朗剣道遺稿集、堂本昭彦、p100、2007年
  2. 有信館本部出版部、剣道手引草第一集、中山博道、p76、1921年
  3. 岩波書店、ワイド版岩波文庫1 五輪書、宮本武藏、p33、1991年

能々稽古あるべし

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